医師のワークスタイル

“失われた20年”を取り戻す産業医という 公衆衛生医の挑戦
櫻澤 博文

合同会社パラゴン 代表社員 CEO
日本産業衛生学会認定指導医
櫻澤 博文

 「人口推計」(総務省統計局)によると15〜64歳の人口である生産年齢人口が8726万人にてピークを迎えたのは、今から20年も前の1995年のことでした。2015年6月1日時点(直近時)の7718万人と比すると、この20年のうちで12%もの生産年齢人口が失われています。総務省統計局による今後の人口推計からみると、2035年には生産年齢人口はピーク比の73%へと約3割も、2045年には同61%と約4割も生産年齢人口は減少の一途をたどることが想定されています。単純に考えるとわが国の企業のうち20年後には3割も、30年後には4割もの企業は生存できず淘汰されかねません。

 対して企業は労働力確保のために定年延長を企図しています。定年を70歳まで延長すると、直近時でも952万人もの労働力が確保可能です。すなわち15〜69歳の人口は8670万人となり、20年前と同程度の労働力が確保可能になります。仕事に働き甲斐を感じる方や労働を生き甲斐と考える方は多いことでしょう。運動要素もある労働に従事することで、認知症や骨粗鬆症防止を含めた様々な抗加齢効果が確保できます。全国規模で考えるならば医療費や福祉予算増加を抑止できるかもしれません。

2014年6月に公布された改正労働安全衛生法により、「ストレスチェック制度」が新たに創設されました。労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査を『ストレスチェック』といいますが、2015年12月から、一定規模以上の企業はこのストレスチェックを実施する必要があることになっています。2006年から実施されている「長時間労働者に対する医師による面接指導制度」によって、これまでは月あたりの超過労働時間数が100時間等の長時間労働に従事していた労働者しか医師による面接制度は希望できませんでした。この「ストレスチェック制度」導入にて、一定の基準を超過した希望者全員が医師の面接を受けられるようになりました。

 そしてベンチマークとしてこれまでに得られた全国統計とを比較することで、その企業や部署という集団の、いわゆる〝働きやすさ〞という視点からみた、全国での立ち位置まで把握できるという「集団的分析」も実施可能となりました。どのような対策を取ったら、その企業集団は働きやすくなるのかまで考察し、対策を企業に講じてもらうことで、その企業の職場環境の改善がはかられます。

 以上において重要な働きをするのが「産業医」です。この世界でも類まれな心身両面における健康診断の法的義務化により、わが国の労働者は、心身両面の不調や失調を未然に防止できることが期待されます。これら労働者に対する心身両面への健康支援と、働きやすく活力あふれる快適な職場環境の形成支援にて病気や怪我が減るだけではなく、前向きに仕事に取り組む労働者が増えることで、生産性向上にも寄与できるでしょう。定年延長も現実解になります。企業側にとっても朗報です。企業価値と社会的評価の向上から、広く社会から信頼と尊敬を受けるような立派な会社になれば、労働力確保も容易になりえましょう。全国レベルでみれば、高齢社会対策にも寄与できると期待したいところです。しかしながら亀田高志氏によると、そのような支援が出来る産業医は、全国に1000人程度しかいない推定がなされています。

 他方、20年前には居なかった〝独立系産業医(開業産業医)〞は、今や3桁を数えるようになっています。健康支援のプロフェッショナルである〝独立系産業医〞と、労務支援のプロフェッショナルである社会保険労務士とが提携し、上記のような夢のような話を実のある実際に変える事例も相次いでいます。要介護者の支援をすることも大切ですが、要介護者を出さなくするという「一次予防」も大切でしょう。筆者は〝独立系産業医〞参入の必須条件である「労働衛生コンサルタント」という国家資格の取得支援をしています。合格実績は2桁になっています。中には〝看板〞になる日本産業衛生学会認定専門医認証をも取得した方も出ています。この文章が、以上の夢を共に担う方との出会いになれば幸いです。

さくらざわ・ひろふみ

産業医大卒業後、京都大学大学院に働きながら通学し社会健康医学修士号や医学博士号を取得。世界的経営コンサルタント企業にて錬成した“スト レスマネジメント”体系は多くの企業の労務管理を飛躍的に変革させている。ストレスチェック制度を導入する企業支援にも邁進中。日本産業衛生学会認定指導医。

※ドクターズマガジン2016年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

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