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罪を犯した人の社会復帰のために ~高齢、障害のある刑務所被収容者への支援を中心に~

罪を犯した人の社会復帰のために

私は、10年程前から罪を犯した人への社会復帰に向けた支援に関する研究を行ってきました。研究にあたり、日本矯正医学会所属の医師にお世話になり、矯正医官としての取組について教えていただき、矯正医療の重要性を学びました。

ここでは、私自身の研究を通して考えたこと、矯正医官の方々から学ばせていただいたことを基に、矯正医官の魅力についてお伝えします。

1.再犯者の増加

罪を犯した人がその人らしい生活を取り戻し、再び罪を犯さず人生を送ることが望まれる中、近年、我が国では再犯者の増加が指摘されています。例えば、2015年(平成27年)に一般刑法犯で検挙された239,355人のうち,再犯者は114,944人(48.0%)であり、同年の入所受刑者21,539人のうち、再入所者は12,803人(59.4%)でした。 (※1)

この中には、福祉を中心とした支援があればそもそも罪を犯すことはなく、そして、罪を犯した場合でも、警察、検察、裁判、矯正、更生保護の各段階で福祉の支援へのつなぎがなされれば再び罪を犯すことなく、その人らしい生活を送ることができたであろうと考えられる高齢者と障害者が含まれています。

高齢者に関しては、2015年(平成27年)に刑務所に入所した2,313人のうち、再入所者が1,611人(69.6%)であり、このうち871人(37.7%)が6回以上入所しているという統計が示されています。(※2)
また、知的障害のある受刑者またはその疑いのある受刑者を対象とした調査では、対象者の平均入所回数が3.8回であったとの結果が示されています。(※3)

以上のことから、我が国では、高齢者および障害者を含め、罪を犯した人の社会復帰が喫緊の課題とされています。

  1. (※1)法務省法務総合研究所編(2016年)「平成28年版犯罪白書」205・215頁。
  2. (※2)法務省法務総合研究所編(2016年)「平成28年版犯罪白書」185頁。
  3. (※3)法務省法務総合研究所研究部報告52(2013年)「知的障害を有する犯罪者の実態と処遇」31頁。2012年1月1日から同年9月30 日までに、全国77か所の刑務所及び少年刑務所に入所した、知的障害者296人・知的障害の疑いのある者252人を対象に調査が実施された。
    http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00072.html

2.社会復帰に向けた福祉的支援

罪を犯した高齢者や障害者の社会復帰のためには、福祉を中心とした支援が有効であることから、主な施策として、

  1. (1)刑務所等での福祉職を中心とした支援
  2. (2)更生保護施設(刑務所出所後,身寄りのない人を受け入れる施設)での福祉的支援
  3. (3)地域生活定着支援センターによる刑務所出所者等に対する福祉的支援

が進められています。
また、最近では刑事司法のより早い段階で福祉の支援につなぐことに実効性があることから、

  1. (4)検察庁における被疑者または被告人段階での福祉的支援

なども展開されているところです。
このように、司法と福祉が連携することにより、罪を犯したことで初めて福祉の支援につながり、そこから新たに出発できる人たちがいます。

3.矯正医官の重要性

しかし、罪を犯した人の社会復帰に向けた支援にあたっては、福祉の力だけでは限界があり、医療の力が重要です。近年の高齢化に伴い、刑務所では何らかの疾病を有する人の割合が上昇しています。2016年(平成28年)10月1日現在の刑事施設被収容者の有病率は66.6%であり、9.8%の人が精神疾患を抱えていました。

病気の内訳は、「循環器系の疾病」「精神および行動の障害」「消化器系の疾患」「感染症および寄生虫症」「呼吸器系の疾患」の順に様々です。
また、少年院や少年鑑別所では、身体疾患に罹患している人は少なく、精神疾患に罹患している人や発達障害を有する人が一定数含まれているのが特徴です。

様々な病気を抱えている人たちが社会復帰するためには、その人たちが健康を取り戻すこと、またそれぞれが抱える問題に対応した医療が必要不可欠です。さらに、出所にあたっては、地域での医療が必要となり、刑務所内の医療に引き続き、地域の医療に確実につなぐことで、その人が出所後も継続した医療を受けられることが求められます。そのためには、医学の知識を有し、地域の医療機関とのネットワークを持った医師の力がなくてはなりません。

また、高齢者や障害者が福祉制度を利用するにあたっても、医師の診断や意見が求められることが多くあります。例えば、介護保険制度の要支援・要介護認定、障害者総合支援法による障害支援区分認定、身体障害者手帳をはじめとする福祉手帳取得、成年後見制度の利用、障害年金受給などにおいても、医学的な見解が求められます。対象者は、医師に診断・意見を示していただくことにより、初めて制度やサービスの利用につながり、今後の生活や人生設計を行うことができるのです。

刑務所や少年院は、罪を犯した人たちの再出発の場です。医師の力によって、その人たちが健康を取り戻し、再び社会でその人らしい生活を送ることが望まれます。

4.「3つのLIFE(生命・生活・人生)」を支える

人にとって大切なものとして「生命・生活・人生」、すなわち「3つのLIFE」があります。医師をはじめとする医療職も福祉職も、「3つのLIFE(生命・生活・人生)を支える」という共通した重要な役割を担っています。刑務所等においても、医療は生命に、福祉は生活に重点を置きながら、人生の再出発を支えています。

罪を犯して刑務所等に入所している人たちは、医師のことをとても頼りにしています。医師からの温かい言葉や熱心な診療により、対象者は笑顔になり、心を強くし、出所後の生活への希望を見出すことができるようになります。

「元気になって仕事をしたい」「もう一度家族と一緒に暮らしたい」「社会に貢献したい」等という希望を持つことで、その人たちは社会復帰への一歩を歩み始めるでしょう。何らかの原因で罪を犯し、今は施設に収容されている人たちにも、一生懸命頑張っていた時代があります。その人たちが、再び社会に出て頑張ることができるよう、希望を与え、やる気を起こしてもらうことが大切だと思います。医師からかけてもらった温かい言葉や親切な対応を、その人たちは生涯忘れることはないでしょう。

5.矯正医官の魅力

まとめ

これまでに、日本矯正医学会で学ばせていただくと共に、刑務所を訪問して先生方にお話を伺う機会を与えていただきました。皆さんがとても温かい方たちで、熱心に医師としての使命を貫いておられることに強い感銘を受けました。彼ら(彼女ら)は、刑務所等ばかりでなく、大学病院や地域の病院で勤務することにより医療技術を高めるとともに、そこでの医療向上にも貢献されています。また、調査研究機関において研究活動を行うなど、矯正医療に加え、研究や社会活動においても活躍なさっています。

このように、矯正において、罪を犯した人たちの社会復帰を支えるという大変重要な役割を果たしておられます矯正医官の皆さんに、心からの敬意を表します。

最終更新(2017/07/26)

<執筆者プロフィール>

執筆者:鷲野明美
鷲野 明美(わしの あけみ)

健康科学大学健康科学部福祉心理学科
准教授

愛知県出身。社会福祉士。1997年、愛知県立大学文学部社会福祉学科卒。2007年、中央大学法学部法律学科卒。2009年、愛知県立大学大学院国際文化研究科国際文化専攻博士前期課程修了。2010年より中央大学大学院法学研究科博士後期課程(刑事法専攻)在籍。1997年より16年間、愛知県海部郡佐屋町役場、愛西市役所に勤務。2013年より3年間、日本福祉大学福祉経営学部助教。2016年より現職。

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