常識の非常識

SGLT2 阻害薬で心血管疾患と死亡が減少する?
名郷 直樹/五十嵐 博

武蔵国分寺公園クリニック
院長
名郷 直樹/五十嵐 博

 新しい経口糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、腎臓でのグルコースの再吸収を阻害し、血糖を下げる薬剤です。2013年のランダム化比較試験(EMPA¬REG OUTCOME 試験)のメタ分析では、SGLT2阻害薬はプラセボと比較してHbA1cを平均0.66%低下させるものの、短期的な効果を検討した研究がほとんどで、長期的な心血管疾患や死亡に対する影響は不明とされています。1) 日本でも2014年4月からSGLT2阻害薬が発売されていますが、予想されていた尿路・性器感染症に加えて、ケトアシドーシス、脱水、脳梗塞といった重篤な副作用も報告されています。
 そんな中、2015年9月の The New England Journal of Medicine に、心血管リスクの高い2型糖尿病患者におけるSGLT阻害薬の心血管疾患、死亡に対する影響を検討したランダム化比較試験が報告されました。2) 心血管疾患の既往があり、body-mass index(BMI)45未満、推定糸球体濾過量(eGFR)30mℓ/ min / 1.73m2 以上の2型糖尿病の成人患者7028人を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(10㎎ または25㎎)の投与とプラセボの投与を比較して、心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカムを検討した非劣性試験です。中央値3・1年の追跡で複合アウトカムは、エンパグリフロジン群で10.5%、プラセボ群で12.1%とエンパグリフロジン群で14%少ないという結果でした(ハザード比0.86、95%信頼区間0.74〜0.99)。総死亡についても、エンパグリフロジン群で5.7%、プラセボ群で8.3%と、エンパグリフロジン群で32%少なくなっています(ハザード比0.68、95%信頼区間0.57〜0.82)。副作用については、性器感染症がエンパグリフロジン群で6.4%、プラセボ群で1.8%とエンパグリフロジン群で多いものの、他の副作用は両群でほぼ同様でした。
 ランダム化比較試験の研究デザインに大きな問題はないように思われます。それでは、心血管リスクの高い2型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬を投与すべきなのでしょうか?2型糖尿病患者における薬物による厳格な血糖コントロールの効果を検証したACCORD 試験では、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死亡の複合アウトカムは、厳格な血糖コントロール群で標準的な血糖コントロール群よりも10%少ない傾向にあるものの有意差を認めず(ハザード比0.90、95%信頼区間0.78〜1.04)、一方で総死亡が22%多く(ハザード比1.22、95%信頼区間1.01〜1.46)、研究は途中で中止されました。3)ここで主要な検討項目である複合アウトカムの95%信頼区間の上限を見てみると、ランダム化比較試験では0.99、ACCORD 試験では1.04と非常に近い値となっています。ACCORD 試験とランダム化比較試験の結果に正反対の評価を下すというのは、p値にとらわれているだけのようにも思えます。今や糖尿病薬のゆるぎなき第一選択薬メトホルミンの効果を検討したUKPDS34 の結果は、全糖尿合併症についての相対危険が0.68、95%信頼区間が0.53〜0.87、総死亡については相対危険0.64、95%信頼区間0.45〜0.91というものです。4)このメトホルミンの効果からすればはるかに薬価の高いSGLT2阻害薬の効果はそれほどでもないと感じられるのではないでしょうか。12.1%のイベントを10.5%に減らすことがどういう意味を持つのか、立ち止まって考えてみてもよいかもしれません。
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「医療界 常識の非常識」は今回が最終回です。5年間ご愛読ありがとうございました。

【参考文献】

1 Vasilakou D, Karagiannis T, Athanasiadou E, et al. Sodiumglucosecotransporter
2 inhibitors for type 2 diabetes: a systematic reviewand meta-analysis. Ann Intern Med . 2013 Aug 20;159(4):262-74.PubMed PMID: 24026259.2 Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al. ; EMPA-REG OUTCOMEInvestigators. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality inType 2 Diabetes. N Engl J Med . 2015 Sep 17. PubMed PMID: 26378978.
3 Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group, GersteinHC, Miller ME, Byington RP, et al. Effects of intensive glucose lowering intype 2 diabetes. N Engl J Med . 2008 Jun 12;358(24):2545-59. PubMedPMID:18539917.
4 Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complicationsin overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). UK ProspectiveDiabetes Study (UKPDS) Group. Lancet . 1998 Sep 12;352(9131):854-65.Erratum in: Lancet 1998 Nov 7;352(9139):1558. PubMed PMID: 9742977.

※ドクターズマガジン2016年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。