医師のワークスタイル

留学体験記(その1)

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消化器内科医 秋山 慎太郎。IBDフェローとしてアメリカ挑戦 研究と臨床の両立

シカゴ大学のIBDフェローとして研究と臨床に従事して9ヶ月が経とうとしています。現在、米国でも新型コロナウイルス(COVID-19)が大流行しており、3月20日には、イリノイ州のロックダウンが宣言、自宅滞在命令が発令され、留学生活にもさまざまな影響が出てきております。今回の体験記では、こちらでの留学生活の現状をIBDフェローの視点からお伝えしようと思います。目下、IBDフェローとして、COVID-19のパンデミック状況下でIBD入院患者をどのようにマネージメントしたらよいかという議題にも取り組んでおり、シカゴ大学IBDセンターでの対策案をご紹介したいと思います。


生活における変化


近所のスーパーマーケット。パスタが売り切れ。

イリノイ州がロックダウンされる少し前から、スーパーでは食料品の買い占めが目立つようになりました。特に、ハンドサニタイザー、紙類、米、パスタなどが品切れになっており、現在でもなかなか手に入りません。スーパーによっては入店者数を制限しており、入り口前に行列ができているところもあります。また、ほとんどの飲食店では店内での飲食は不可ですが、「テイクアウトだけは可能」と張り紙が貼ってある店は結構あるようです。息子の学校は3月中旬から休校になり、再開は5月前半の予定となっています。


研究への影響

まず、IBDフェローのスケジュールについては、週2回半日の外来勤務が義務となっており、入院患者担当期間と研究期間は明確に分かれています。内視鏡業務は、研究期間に行うことはありません。3月は研究期間なので、先月からいろいろと実験計画を練っていました。


大学のIDを持つ者以外立ち入り禁止。

現在、大腸内視鏡検査で回収されたIBD患者の大腸粘膜(生検検体)を用いた実験に取り組んでいます。このプロジェクトでは「フローサイトメトリーによるセルソーティング」という実験がキーとなります。3月に入ってからCOVID-19パンデミックの影響で患者リクルートが禁止になったため、自分の血液を用いてセルソーティングを行っていました。しかし最近になってバイオセーフティーの観点から「ヒト由来の検体を用いてはいけない」という規制が敷かれため、実験が完全に滞ってしまいました。さらには自宅滞在命令が発令されたため、ラボにも行けなくなりました。

COVID-19による実験への被害は甚大です。この状況が改善されるまでの間は、患者データ用いた臨床研究を頑張っていこうかと思っています。


臨床業務における変化

シカゴ大学消化器内科には、卒後3-6年目に相当する消化器内科フェロー(GIフェロー)が13人います。そのほかにも、AdvancedフェローとしてIBD2人、肝臓分野1人、栄養分野1人が所属しており、合計17人のフェローで構成されております。


自宅での電話による外来診療。家でも電子カルテが使用可能。

現在、病院に行くフェローの人数を極力制限すべく、4人のGIフェローが消化器内科の各分野の病棟を管理して、他のフェローはバックアップという体制をとっています。一方外来では、安定している患者に対しては電話やMyChart(電子カルテ上のメッセージツール)でやり取りをしており、患者に直接会って診察することは控えています。内視鏡や外科手術に関しても同様で、急を要する患者以外への施行は、かなり制限されております。

このような通常とは異なる診療体制の中、IBD患者の入院適応や治療をどのように考えたらよいかという議題に、IBDフェローとして取り組んでいます。まず、同僚のIBDフェローと上級医の先生とでZoomを用いたディスカッションをしたのち、院内プロトコールを早急に仕上げました。そしてIBDチーム内で意見をいただき、それをもとに修正を行っています。

この過程で議題になったことをいくつか紹介します。やや専門的なので、IBDに興味のある先生方が対象となると思います。ここでは特に、重症の潰瘍性大腸炎(UC)患者を想定しています。また、COVID-19パンデミック下でのIBD患者マネージメントに関して、イギリスや中国で発足されたガイドラインやステートメントはありますが、エビデンスレベルが高いものとは言えず、さらなる調査、研究が必要です。下記の内容は、あくまで専門家の意見ですので、参考程度に読んでいただければと思います。

(1)UC患者の入院適応について

上述のように病院内の人員を制限している中で、入院適応を狭めるべきかどうかということが議題に上がりました。これに関しては、特に大きな制限を設けず、外来でできる限りの治療を施したにもかかわらず治療抵抗性を示す症例は、入院適応となるという意見で一致しています。

(2)サイトメガロウイルス(CMV)感染の検査をどうするか

UC患者が入院した際に、まず、Clostridioides difficileやCMVによる感染を除外すると思います。前者は便検査で検出できるのですが、後者についてはやや複雑です。最も感度の高い検査は、大腸粘膜のCMV DNAをPCRにより検出する方法と考えられます。この場合、大腸内視鏡検査を行い、潰瘍などの炎症を起こした粘膜を生検で回収し、PCRにかけます。しかし、COVID-19パンデミック下では大腸内視鏡検査は制限されており、できるだけ内視鏡を用いずにCMVをスクリーニングする方法を模索したほうがよいという案がでました。

文献検索の結果から、血液のCMV PCRの感度は大腸粘膜のそれに劣らないと解釈できたため、COVID-19パンデミック下では血液検査でCMVをスクリーニングし、陽性であれば治療するという案でまとまりそうです。

(3)UC患者の治療はどうするか

大学にページャーを忘れてしまい仕方なくの外出。閑散とした構内。

繰り返しになってしまいますが、COVID-19パンデミック下でのIBD患者マネージメントに関して、質の高いエビデンスはありません。また、ここでの議論は、COVID-19に感染したUC患者をいかに治療するかということではありません。UC患者が増悪して入院した際に、生物学的製剤や免疫抑制剤を新規に始めることも多いと思います。ここで重要となるのが、彼らがCOVID-19パンデミックの環境へと退院した際に、どの薬剤が、どの程度、COVID-19の感染リスクを高めるのかということです。高容量ステロイドはできるだけ短期に使用するという案や、抗TNFα阻害剤は安全に導入できるといった意見がでていました。ここで特に議論となったのが、カルシニューリン阻害剤です。

この薬剤には、静注で導入して経口に移行するシクロスポリンと経口薬であるタクロリムスの2種類があり、シカゴ大学では、UC患者の寛解導入として前者がよく使用されています。カルシニューリン阻害剤は導入後、血中濃度を日々測定し、投与量を調整する必要があります。シクロスポリンは静注から経口に移行する必要があり、経口から開始するタクロリムスと比較すると、血中濃度の安定化に時間がかかる印象があります。

現在、病院内の人員が少ないため、入院期間をできるだけ短くすること求められます。さらに、COVID-19パンデミック下では外来での血液検査頻度をなるべく少なくすることが好ましいと考えられます。これらの観点から、カルシニューリン阻害剤を使用する場合は、タクロリムスが好ましいという案がでています。また、別のタイプの経口薬で、血中濃度の測定がいらないJAK阻害剤も候補になるのではないかという意見も出ています。

COVID-19は、現在、米国で猛威をふるっておりますが、日本も未だ油断できない状況だと思います。もし米国の状況が、日本に発生した場合、医療が崩壊しかねないと考えます。ですので、今のこの状況では、一人一人が、危機感をもって行動していくことが、とても大事であると思います。

IBDフェローとして、さまざまなこと学ばしていただいております。今後も研究や臨床に関して、こちらの活動を随時報告させていただく予定です。この記事が、少しでも、医療従事者の方々、患者様のお役に立てば、大変うれしいです。

<プロフィール>

秋山 慎太郎

秋山 慎太郎(あきやま・しんたろう)

2000年4月- 電気通信大学量子物質工学科入学(工学学士)
2004年4月- 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻(理学修士)
2006年4月- 弘前大学医学部医学科(3年時へ学士編入)
2010年4月- 虎の門病院内科研修開始
2014年4月- 東京医科歯科大学消化器内科入局
同年- 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科に入学(医学博士)
2018年4月- 東京医科歯科大学消化器内特任助教
2018年11月- 渡米
2018年12月- シカゴ大学Postdoctoral scholar
2019年7月- シカゴ大学advanced IBD fellowship


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