常識の非常識

急性胃腸炎には乳酸菌製剤というのは世界中で行われる処方、というわけではない・・・
竹村 洋典

三重大学大学院
教授

竹村 洋典

 他国で臨床研修する利点の一つ。日本で当たり前に使っていたものが、違う国ではそうでなかったことがわかること。

 乳酸菌剤の使用もそのトップ3に入る。急性胃腸炎で下痢した時などに使いますよね。○○フェルミンとかミヤ○○とか。あまり副作用がなさそうなので、大人にも小児にもよく使いませんか?それが、アメリカで研修医を開始してわかったんです、アメリカでは使われない…。

 これが使えないと、急性胃腸炎の患者に処方する薬がほとんどなくて焦った…。筆者が家庭医療レジデントをしていたテネシー大学病院の薬局に行ったらば、医療用医薬品にはないが、処方箋なしで購入できる一般用医薬品(いわゆるOTC医薬品)として乳酸菌製剤を売っているかも、と言われて、近くのスーパーの薬局に行ったらば確かにあった。そこで診療で下痢患者に出会うと、かならず「ラクトバシラス」を町の薬局で購入して内服するように指示していた。しかし、それも数週間でできにくくなった…。というのは、指導医が「ヨウスケ、乳酸菌製剤は日本流の処方だからアメリカではふさわしくない」とたしなめられてしまった…。以来、単純な急性胃腸炎には、指導医のアドバイスに従って、薄めたスポーツドリンクなど適度な補液と適切な食事を勧めることとなった。「適切な食事」とはBRAT食と称する食事で、バナナ(Banana)、米(Rice)、アップルソース(Applesauce)、(何もつけていない)トースト(Toast)を指す。これは医療従事者でない多くのアメリカ人が知っている下痢患者のための食事。日本人の「下痢にはお粥やうどん」と同じ感覚の食事である。それにしても、下痢患者にバナナやトースト…。下痢患者を前にして筆者の困惑はますます深まったことをご想像いただけると思う。

 そんな驚き、焦りもアメリカの日々の診療で薄れ、乳酸菌製剤なしの治療に慣れてしまった。 そして帰国とともに、またかつて使っていたように乳酸菌製剤を「ありがたく」使っている竹村ではあったが、今回、乳酸菌製剤にかかわるエビデンスをいろいろと調べてみた。そうしたところ、確かに乳酸菌製剤が急性胃腸炎に効果があると断言している論文が多くあるわけではない。しかし、一方で、最近では急性の下痢患者への乳酸菌製剤の効果を認めるシステマティックレビューもあった(1)。乳酸菌製剤が急性胃腸炎患者の治療に意味がない、というわけでもないようである。ついに日本の勝利!と言えるほどのエビデンスではないかもしれないが。ちなみにBRAT食の急性胃腸炎患者への効果を認める論文も少ないようである(2)。

 もう一点、アメリカの研修において興味深く思ったのは、急性胃腸炎患者で発熱など細菌性胃腸炎が考えられる場合、すぐに便中白血球をチェックしていたこと。この検査はテネシー大学ではかなり頻用されていた。そして便中白血球の存在が抗菌薬開始の重要な要件となっていた。これが陰性であれば、患者を数日、保存的にフォローする。実際に便中白血球の有用性について調べてみると、便中白血球の存在は、炎症性の腸炎を示唆する感度特異度が高い指標という報告もあった(3)。日本に帰国後、便中白血球を検査してくれない施設も多く、グアヤック法・オルトトリジン法(試薬のしみた紙に便を塗りつけてそこに試薬をたらして判定する簡易な方法)による便潜血にて代用していたが、これについてもこの簡易な便潜血試験紙が発売中止となって日本の施設で手に入りにくくなり、さらに実施が困難になりつつある。

 よく遭遇する急性胃腸炎においても、その診療において日本と他国でこれだけ違いがある。 しかし、どちらが正しいかは、環境や人種の差もあるから、各々調べておく必要はあろう。

 

【参考文献】

(1) Allen SJ, Martinez EG, Gregorio GV, Dans LF. Probiotics for treating acute infectious diarrhoea. Cochrane Database Syst Rev 2010; :CD003048.
(2) King CK, Glass R, Bresee JS, et al. Managing acute gastroenteritis among children: oral rehydration, maintenance,and nutritional therapy. MMWR Recomm Rep 2003; 52:1.
(3)Thielman NM, Guerrant RL. Clinical practice. Acute infectious diarrhea. N Engl J Med 2004; 350:38.

※ドクターズマガジン2014年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。