常識の非常識

日本の常識は世界の常識を変えていく?
竹村 洋典

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三重大学大学
教授

竹村 洋典

 これまでの1年間の連載で、実は「日本の常識」が「世界の非常識」である例が少なからずあることがお分かりいただけたかと思う。 

  かつて、筆者がアメリカで家庭医療のレジデントをしていた時、アジアの開発途上国から来た若い医師が流ちょうな英語でさっそうと臨床をするのに驚いた記憶がある。ここ数年で訪問した東南アジア・南アジア・アフリカなどの医学生や若い医師は、英語で書かれた最先端の教科書を使った授業を受けており、教員や指導医も欧米から招いている例が多かった。彼ら彼女らは熱くてキラキラと光っていた。現在、筆者の教室にインドネシアから来た若い大学院生がいるが、彼女は英語も堪能、知識もズバ抜けている。 

  近代の日本の医学も少なからず欧米に依存してきた。貪欲に西洋医学を取り入れる過程では、批判を抜きにひたすら受け入れることも必要だったように思う。この過程なしに今日の日本医学の発展はないであろう。しかし、現在の日本はどうか。医学部の教員の大半は日本人であり、日本語の教科書を使い日本語で授業が行われているのが大半だ。海外で学ぶ研究者や学生の数も減少している。こうした状況を見ると、日本の医療者は「井の中のかわず」になるのでは、と心配になる。 

  では、今後の日本はどうあるべきか。ぴったりと欧米の後ろに付いていくべきか。いや、日本が欧米と協同して彼らと肩を並べ、さらにその日本が欧米を追い越して、先頭を走るぐらいの熱い気概が日本人にあってもいい。現実に振り回されるのではなく、夢を真っすぐに追い求めてほしい。理学・工学において世界の進歩に寄与してきた日本の科学技術にあって、医学においては世界をけん引しきれていないのは歯がゆい思いがある。欧米で明らかにされたエビデンスを、日本人が我が物顔で語るのはあまり体裁のよいものではない。「他人のフンドシで相撲をとっている」と言われても仕方ない。 

  これからは、日本の医師や研究者が日本で有用なエビデンスや考え方を構築し、それを世界の人々とシェアすることが肝要である。近年、研究者・研究医になる人が少なくなりつつあるがこれはいまいましき状況である。世界の臨床医が待ち望んでいるような優れたエビデンスを欧米の研修者と対等な立場で協働してほしい。 

  EBM(EvidenceBasedMedicine)に従った医療は重要であるが、その基となるエビデンスを是非とも日本から発信してほしい。そして日本発の知見が他国の「非常識」を正すことに寄与できれば素晴らしいことだ。また、アジアを主とした海外の若い医師、研究者を日本に誘致して共に活動することも重要になる。欧米諸国は、よい研究を実施するのに必要な能力を身に付けさせるために、魅力ある大学院のコースを用意して力を注いでいる。これによって大学院の授業料を海外の学生から得るだけでなく、優秀な人材やその成果物も得ている。欧米の大学などのように、日本においてもそれをビジネスにするくらいの大胆さで勝負することが理想だろう。そのために効果的な教育を実施しながら、日本の大学や大学院における授業をおおかた英語で行ってもいいかもしれない。アジア各国において日本は羨望の国に映る。アジアからの優秀な留学生が来日する可能性は高い。 

  他国より先行できて日本が実施しなければならない研究テーマも少なくない。例えば、世界は日本の高齢者医療や在宅医療に大きな関心をもっている。日本が先頭を切って突入した超高齢化社会における理想の医療とは何か、世界でも珍しい介護保険はどこまで機能するだろうか、などのリサーチクエスチョンの答えは日本から発信すべきことであると思う。特に筆者の領域の「総合診療・家庭医療のアカデミズム」が頑張らなくてはならない。 

  今後、海外で研さんを積むことを希望する医師、エビデンスを自ら作りたいと考える医師、医学・医療の世界に貢献し寄与したいと願う医師が、日本に増えてくることを期待している。 

  これまでも日本には危機に際して多くの若者が立ち上がってきた歴史がある。大胆な夢と真っすぐな情熱でその実現に果敢に立ち向かってほしい。 

  筆者の担当分は今回で終了となります。1年間、お付き合いいただいた皆様に、心から感謝いたします。

※ドクターズマガジン2015年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。