常識の非常識

脳卒中の一次予防には葉酸が有効?
名郷 直樹・五十嵐 博

武蔵国分寺公園クリニック
院長
名郷 直樹・五十嵐 博

 葉酸はビタミンBの一種です。葉酸欠乏が原因で引き起こされる病気としては巨赤芽球性貧血が有名ですが、神経管欠損症の原因にもなります。ランダム化比較試験のメタ分析では、妊娠前から妊娠初期に葉酸を投与すると、プラセボと比較して出生児の神経管欠損症の発症が減少することが示されています(リスク比0.28、95%信頼区間0.15~0.52)。1)このため、神経管欠損症の予防を目的として穀物製品の葉酸添加が行われている国も多く、日本の厚生労働省も妊娠前から0.4㎎ /日の葉酸を摂取することを推奨しています。

 葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12は、心血管疾患のリスク因子とされる血中ホモシステイン値を低下させることから心血管疾患の予防効果が期待されていましたが、高リスク患者におけるこれらのビタミンの心血管疾患の予防効果を検証したランダム化比較試験のメタ分析では、心筋梗塞(リスク比1.02、95%信頼区間0.95〜1.10)、脳卒中(リスク比0.91、95%信頼区間0.82~1.0)、総死亡(リスク比1.01、95%信頼区間0.96~1.07)の有意な減少を認めませんでした。2)

 そんな中、最近、脳卒中の一次予防における葉酸の効果を検証したランダム化比較試験がJAMA (The Journal of the American Medical Association)に発表されました。3)穀物製品の葉酸添加が行われていない、中国からの報告です。心筋梗塞や脳卒中の既往のない45~75歳の高血圧患者2万702人を対象に、葉酸群(エナラプリル10㎎ /日+葉酸0.8㎎/日の投与)と対照群(エナラプリル10㎎/日の投与)を比較して、初発脳卒中の発症を検討したものです。中央値4.5年の追跡で、初発脳卒中は葉酸群で2.7%、対照群で3.4%と、葉酸群で21%少ないという結果となっています(ハザード比0.79、95%信頼区間0.68~0.93、治療必要数[number needed totreat]141)。

 これまでの葉酸による心血管疾患予防についてのランダム化比較試験は、そのほとんどが心血管疾患の既往のある高リスク患者を対象としていますが、米国など、穀物製品の葉酸添加が行われている国で実施された研究が多く、今回の研究と比較してベースラインの葉酸値は高くなっています。高リスク患者ではイベントの発生率が高いため、一般に臨床試験の参加者が少なくて済みますが、葉酸のような栄養素についての研究では、対象患者を選ぶ際にイベントのリスクよりも栄養素のベースライン値が重要なのかもしれません。あるいは、今回の研究では脂質低下薬を服用している患者が0.8%、抗血小板薬を服用している患者が3.1%未満しか含まれていませんでしたが、高リスク患者を対象とした研究ではこれらの併用薬を服用している患者が多く、葉酸の効果が出にくかったのかもしれません。

 日本でも、中国と同様に穀物製品の葉酸添加は行われておらず、葉酸が高血圧患者における脳卒中の一次予防に有効である可能性があります。葉酸の安全性は高いとされていますが、高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にすることがあるため、注意が必要です。いっとき、葉酸摂取とがんの発症との関連が指摘されていましたが4)、その後のメタ分析では有意なリスクの上昇は認めていません(全てのがんの発症の相対危険1.06、95%信頼区間0.99~1.13)。5)葉酸は緑黄色野菜などの食物から摂取できれば一番ですが、高血圧患者ではサプリメントからの摂取という選択肢もあるかもしれません。安全性が高く、安価であることを考えると、穀物製品の葉酸添加も今後検討する価値はありそうです。

 

【参考文献】

1 De-Regil LM, Fernández-Gaxiola AC, Dowswell T, et al. Effects and safety of periconceptional folate supplementation for preventing birth defects. Cochrane Database Syst Rev . 2010 Oct 6;(10):CD007950. PubMed PMID:20927767

2 Martí-Carvajal AJ, Solà I,Lathyris D. Homocysteine-lowering interventions for preventing cardiovascular events. Cochrane Database Syst Rev .2015 Jan 15;1:CD006612. PubMed PMID: 25590290.

3 Huo Y, Li J, Qin X, etal. ; CSPPT Investigators. Efficacy of Folic Acid Therapy in Primary Prevention of Stroke Among Adults With Hypertension in China: The CSPPT Randomized Clinical Trial. JAMA . 2015 Mar 15. doi: 10.1001/jama.2015.2274. PubMed PMID: 25771069.

4 Ebbing M, Bønaa KH, Nygård O, et al.Cancer incidence and mortality after treatment with folic acid and vitamin B12. JAMA . 2009 Nov18;302(19):2119-26. PubMed PMID: 19920236.

5 Vollset SE, Clarke R,Lewington S, et al. ; B-Vitamin Treatment Trialists' Collaboration. Effects of folic acid supplementation on overall and site-specific cancer incidence during the randomised trials: meta-analyses of data on 50,000 individuals. Lancet . 2013 Mar 23;381(9871):1029-36. PubMed PMID: 23352552.

※ドクターズマガジン2015年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。