常識の非常識

糖尿病の検診を受けても死亡は減らない?
名郷 直樹・五十嵐 博

武蔵国分寺公園クリニック
院長

名郷 直樹・五十嵐 博

 糖尿病の検診(血糖やHbA1cの測定、以下、糖尿病検診)は、日本では40歳以上を対象とした特定健診や、75歳以上を対象とした後期高齢者健診などで実施されています。米国では、30〜45歳から3〜5年間隔で行う糖尿病検診は費用対効果に優れているという分析がなされています。1)

 そんな中、2012年のThe Lancet に、糖尿病検診についての衝撃的な論文(ADDITION Cambridge 研究)が発表されています。2)家庭医を受診している2型糖尿病発症リスクが高い40〜69歳の患者2万184人を対象に、随時血糖とHbA1c を用いた糖尿病検診を行う群と糖尿病検診を行わない群で、総死亡を比較したクラスターランダム化比較試験です。中央値9・6年の追跡で、総死亡は糖尿病検診群で9.5%、対照群で9.1%と有意差を認めず、むしろ糖尿病検診群で死亡が6%多い傾向にあるという結果でした(ハザード比1.06、95%信頼区間0.90〜1.25)。なお、心血管死亡についても同等となっています(ハザード比1.02、95%信頼区間0.75〜1.38)。

 それでは、検診で発見された早期の糖尿病や耐糖能異常に対する治療効果についてはどうでしょうか?2011年に発表されたクラスターランダム化比較試験(ADDITION Europe 研究)では、3)検診で糖尿病を指摘された40〜69歳の患者3057人を対象に、複数の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常など)に対する集中的治療を行う群と、通常のケアが比較されています。平均5.3年の追跡で、初発心血管イベント(心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、血行再建術、非外傷性四肢切断)は集中治療群で7.2%、対照群で8.5%と集中治療群で少ない傾向にあるものの、有意差は認めませんでした(ハザード比0.83、95%信頼区間0.65〜1.05)。中国の耐糖能異常のある過体重の患者577人を対象としたクラスターランダム化比較試験(Da Qing Diabetes Prevention 研究)では、4)6年間におよぶ生活習慣指導(食事、運動)を行うと、通常のケアと比較して23年後の総死亡(ハザード比0.71、95%信頼区間0.51〜0.99)と心血管死亡(ハザード比0.59、95%信頼区間0.36〜0.96)が少ないと報告されています。ただし、追跡期間20年での報告では、5)総死亡(ハザード比0.96、95%信頼区間0.65〜1.41)、心血管死亡(ハザード比0.83、95%信頼区間0.48〜1.40)に有意差は認められていません。

 耐糖能異常に対する介入は糖尿病の発症を予防するかもしれません。また、早期の糖尿病や耐糖能異常に対して集中的な治療を行うと、長期間の追跡では総死亡や心血管死亡が減少する可能性はあります。一方で、糖尿病発症リスクが高い患者を対象としたADDITION Cambridge研究でも、未診断の糖尿病の有病率は3%にとどまっています。18〜88歳の日本の健診受診者3万3335人を対象とした研究(TOPICS 10研究)では、6)未診断の糖尿病の有病率は2.9%とADDITION  Cambridge 研究とほぼ同率ですが、年齢、性別、糖尿病の家族歴、喫煙、BMI、高血圧の有無から計算されるスコア(16点満点)によって、未診断の糖尿病の有病率が4〜17%の高リスク群を同定することが可能となっています。しかし、少なくとも個別のリスクを考慮せずに低リスクの患者にも広く行われる糖尿病検診や、余命の限られている高齢者に対する糖尿病検診は、集団レベルでの予後を改善しない可能性が高いということはここで確認しておきたいと思います。

 

【参考文献】

(1) Kahn R, Alperin P, Eddy D, et al. Age at initiation and frequency of screening to detect type 2 diabetes: a cost-effectiveness analysis. Lancet. 2010 Apr 17;375(9723):1365-74. PubMed PMID:20356621.

(2) Simmons RK, Echouffo-Tcheugui JB, Sharp SJ, et al. Screening for type 2 diabetes and population mortality over 10 years (ADDITION-Cambridge): a cluster-randomised controlled trial. Lancet. 2012 Nov 17;380(9855):1741-8. PubMed PMID: 23040422.

(3) Griffin SJ, Borch-Johnsen K, Davies MJ, et al. Effect of early intensive multifactorial therapy on 5-year cardiovascular outcomes in individuals with type 2 diabetes detected by screening( ADDITION-Europe): a cluster-randomised trial. Lancet. 2011 Jul 9;378(9786):156-67. PubMed PMID: 21705063.

(4) Li G, Zhang P, Wang J, etal. Cardiovascular mortality, all-cause mortality, and diabetes incidence after lifestyle intervention for people with impaired glucose tolerance in the Da Qing Diabetes Prevention Study: a 23-year follow-up study. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014 Jun;2(6):474-80. PubMed PMID: 24731674.

(5) Li G, Zhang P, Wang J, et al. The long-term effect of lifestyle interventions to prevent diabetes in the China Da Qing Diabetes Prevention Study: a 20-year follow-up study. Lancet. 2008 May 24;371(9626):1783-9. PubMed PMID: 18502303.

(6) Heianza Y, Arase Y, Saito K, et al. Development of a screening score for undiagnosed diabetes and its application in estimating absolute risk of future type 2 diabetes in Japan: Toranomon Hospital Health Management Center Study 10( TOPICS 10). J Clin Endocrinol Metab. 2013 Mar;98(3):1051-60. PubMed PMID: 23393174.

※ドクターズマガジン2015年9月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。