常識の非常識

心房細動に対するジゴキシン投与で死亡が増加する?
名郷 直樹・五十嵐 博

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武蔵国分寺公園クリニック
院長

名郷 直樹・五十嵐 博

 ジゴキシンは、心不全の治療や、心房細動における心拍数コントロールの際に使用される薬剤です。心不全患者におけるジゴキシンの効果は、1997年のThe New England Journal of Medicineに発表されたランダム化比較試験(DIG試験)で検討されています。    1)DIG試験では洞調律の心不全患者6800人を対象に、ジゴキシン(中央値0.25㎎/日)の投与とプラセボの投与を比較して、平均37ヶ月の追跡で、総死亡はジゴキシン群で34.8%、プラセボ群で35.1%と同等でした(RR(リスク比)0.99、CI( 95%信頼区間)0.91〜1.07)となっています。 

  最近、ジゴキシンの投与と死亡の増加の関連を指摘した観察研究が相次いで発表されています。2015年のEuropean Heart Journalに発表されたメタ分析を見てみましょう。2)心房細動または心不全患者32万6426人を対象に、総死亡を検討した19の研究(観察研究18、ランダム化比較試験1)を統合したもので、ジゴキシンの投与は総死亡の増加に関連していました(HR(ハザード比)1.21、CI1.07〜1.38)。また、心房細動患者23万5047人を対象とした12研究ではHR1.29(CI1.21〜1.39)、心不全患者9万1379人を対象とした9研究ではHR1.14(CI1.06〜1.22)と、ともに死亡の増加に関連するものの、心房細動患者でより関連が強いという結果です。 

  一方、2015年のBMJに発表されたメタ分析では、研究デザインごとの検討が行われ、やや異なる結論が導かれています。3)心房細動または心不全患者を対象に、総死亡については41研究(観察研究34、ランダム化比較試験7)が統合されています。交絡因子の補正なしの解析(観察研究33解析)ではRR 1.76(CI1.57 〜1.97)、補正を行った解析(観察研究8解析)ではRR 1.61(CI 1.31 〜1.97)、傾向スコアマッチングを行った解析(観察研究6解析)ではRR 1.18(CI1.09 〜1.26)、ランダム化比較試験(7研究全てが心不全患者対象)ではRR 0.99(CI 0.93 〜1.05)と、ランダム化比較試験ではジゴキシンの投与は総死亡に影響しないものの、バイアスのリスクが高い研究ほどジゴキシンの投与と死亡の増加との関連が強くなっています。ジゴキシン群は対照群と比較して年齢が平均2.4歳高く、EFが低く(33%vs42%)、糖尿病の合併や利尿薬、抗不整脈薬の投与が多いというベースラインの患者特性の違いがあり、観察研究における総死亡の増加は、もともと予後が悪い患者に選択的にジゴキシンが投与された結果であるという見解です。 

  心房細動患者に対するジゴキシン投与の効果を検討したランダム化比較試験は行われておらず、総死亡への影響は不明ですが、観察研究では心房細動患者に対するジゴキシンの投与は死亡の増加と関連しており、βブロッカーなどの代替薬がある以上、ジゴキシンの投与は慎重に検討したほうが良さそうです。一方、心不全患者に対するジゴキシンの投与は総死亡に影響せず、心不全による入院を減らすことがランダム化比較試験で示されています。 1)問題となるのは、心房細動と心不全を合併した患者でしょう。DIG試験の後顧的解析では、プラセボ群と比較してSDC(血清ジゴキシン濃度)0.5 〜0.9ng/㎖の群で交絡因子を補正したHR0.77(CI 0.67 〜0.89)と総死亡の低下を認める一方で、SDC 1.0ng/㎖以上の群でHR 1.06(CI 0.93 〜1.20)と、有意差は認めないものの死亡の増加傾向を認めています。4)SDC 高値の予測因子としてジゴキシンの用量については、≦0.125mg /日に比べて0.25mg /日で補正後オッズ比(OR) 3.17(CI 2.25 〜4.47)、>0.25mg/日でOR 8.70(CI 5.04 〜15.00)、血清クレアチニンについてはOR 5.98(CI4.21 〜8.50)と関連が強くなっています。心房細動と心不全を合併した患者に対するジゴキシンの投与については、腎機能障害のない患者に、低用量で、個別に判断するというところでしょうか。

 

【参考文献】

1 Digitalis Investigation Group. The effectof digoxin on mortality and morbidity in patients withheart failure. N Engl J Med . 1997 Feb 20;336(8):525-33. PubMed PMID: 9036306. 
2 Vamos M, ErathJW, Hohnloser SH. Digoxin-associated mortality: asystematic review and meta-analysis of the literature.Eur Heart J . 2015 Jul 21;36(28):1831-8. Epub 2015May 4. PubMed PMID: 25939649. 
3 Ziff OJ, LaneDA, Samra M, et al. Safety and efficacy of digoxin:systematic review and meta-analysis of observationaland controlled trial data. BMJ . 2015 Aug 30;351:h4451.PubMed PMID: 26321114. 
4 Ahmed A, Rich MW,Love TE, et al. Digoxin and reduction in mortalityand hospitalization in heart failure: a comprehensivepost hoc analysis of the DIG trial. Eur Heart J . 2006Jan;27(2):178-86. Epub 2005 Dec 8. PubMed PMID:16339157.

※ドクターズマガジン2015年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。