Doctor's Opinion

大都市における公立病院のありかた
―医療と行政の狭間で―
上田 龍三

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名古屋市病院局長
名古屋市立大学 顧問、医学研究科特任教授

上田 龍三

■はじめに

 私は、平成20年4月より名古屋市の病院事業管理者を務めております。当時は、前年までの名古屋市立大学医学部附属病院長の任期を終え、専門である血液内科の教授職として再び研究活動に専念しようとしていた頃でした。そのような矢先、名古屋市より病院事業建て直しの要請を受け、それまでの市の行政部門から独立した病院局の初代局長に就任することになりました。

 名古屋市の病院事業においては、平成18年頃から急速に経営状況が悪化し、多額の赤字を計上する深刻な状況が続いていました。この原因を診療報酬の改定や新医師臨床研修制度などに求めることは簡単なことですが、端的に言えば、医療を取り巻く環境の変化に的確に対応できなかったことが大きな要因であったと考えています。

■「選択と集中」による病院改革

 病院事業管理者となり、まず取り組んだことは、5つの市立病院を2グループと1病院に再編したことです。限られた医療資源を効果的かつ効率的に活用するため、各病院が一律で特徴のない医療を個々に提供する状況から脱却し、病院間での役割分担と連携に基づき、選択と集中を進めようとしました。

 また、医師確保のために、県内の公立病院の中でも水準の低かった給与を大幅に引き上げるとともに、診療収入と連動しつつ、医師の評価を給与に反映させる手当を新たに導入しました。さらに、24時間院内保育所の整備などを進め、女性医師の労働環境の向上にも配慮してきました。

 公立病院と一言で言っても、その役割は地域によって異なると思います。名古屋市のような病床過剰地域であり、かついわゆる教育病院が多数ある、そして地域のニーズを十分に吸収できるだけの診療所・個人病院がある、このような都会にある公立病院に求められる役割をしっかり整理することも必要です。

 大都市名古屋において、私どもの市立病院のみで、すべての政策医療を提供することは困難であり、病病連携、病診連携がきわめて重要となります。理想は、市民全体がかかりつけ医を持つこと、そのかかりつけ医では対応できない時に頼れる二次救急医療機関としての中核病院、そして大学病院を始めとした三次救急を担う先端病院、これらがシームレスに連携できるような、地域医療連携のネットワークを構築することだと考えます。

 そのような中で、私ども市立病院においては、救急医療、小児・周産期医療、緩和ケアを含むがん医療などの分野において医療機能の強化を図り、市民の医療ニーズに応える体制を作りつつあります。

■地域連携から広域連携へ

 未だ病院改革は道半ばですが、この4年間の間に、5つあった市立病院のうち公立病院としての役割を終えた1病院は民間譲渡し、もう1病院は平成24年4月より指定管理者制度による運営で新たな船出をすることになりました。

 今後は心臓血管、脳血管、救急医療を核とする東部医療センターと小児・周産期医療、がん医療を核とする西部医療センターを2大拠点として、名古屋の医療の一翼を担っていきたいと思います。さらに来年度は、西部医療センターに併設した陽子線治療センターを新たに開設します。東海地域初となる陽子線施設は広域医療連携のひとつの試金石でもあります。東海三県の医療機関の参加によるキャンサーボードの立ち上げなど、広域連携に向けた体制を構築し、多くのがん患者さんのために、この施設を有効活用させていきたいと考えています。

■おわりに

 着任当初は、負のスパイラルに落ちいっている自治体病院の実態に直面し、当惑したものでした。何から手を付け、どこに着地点があるか明確でないうえに、医療の現場、行政、公職者、医師会・大学関係者の思惑が渦巻く中、手探りの4年間があっという間に過ぎようとしています。

 ただ、時代に適応した都市型の医療体制を整えることを施策の基軸としてきたことで、各病院の役割分担と特色が市民や関係者に認知され、信頼感を得つつあることは、職員に自信と誇りを回復させています。市民の期待に応えるべく、教科書の無い世界で、名古屋市に合った改革を引き続き模索していきたいと思っています。

※ドクターズマガジン2012年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

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