Doctor's Opinion

マダニによる感染被害を防ぐには
馬原 文彦

有床診療所 馬原医院 院長
馬原アカリ医学研究所 理事長

馬原 文彦

 わが国におけるダニ媒介性感染症としては、つつが虫病、日本紅斑熱、ライム病などが発生数からまず考えるべき疾患である。その他、野兎病、Q熱、ヒト顆粒球アナプラズマ症、ダニ脳炎、新興回帰熱などがダニによる感染症と認識されている。ところが、2013年に重症熱性血小板減少症候群(SFTS)がわが国にも存在することが報告された。新種のウイルスによる感染症で致死率も高く、マダニにより媒介されることからマダニ刺咬に対するさらなる注意が喚起された。

 日本紅斑熱は1984年著者により発見された急性発疹性熱性感染症である。
病原体はRickettsia japonicaでマダニにより媒介される。当初は希少感染症であったが右肩上がりに増加し、2017年の発生数は史上最多の337例となった。発生地も九州、四国など西日本を中心に沖縄から青森まで拡大し、日本全国いつでも何処でも念頭におくべき感染症である。日本紅斑熱の臨床症状は、高熱、発疹、刺し口が3徴候。紅斑は全身に見られるが痒みを伴わないのが特徴。これまで注目されていなかったが消化器症状が約20%に認められ、新興のSFTSとの鑑別に際して注意を要する。治療はドキシサイクリン(DOXY)やミノサイクリン(MINO)などのテトラサイクリン薬を第一選択薬とするが、一日の最高体温39℃以上の症例では、直ちにニューキノロン薬との併用療法を行うことを提唱している。

 SFTSは2009年中国で発生し、2011年にブニヤウイルス科に属するSFTSウイルスが特定された新興感染症である。2013年に国内で初めて報告され4類感染症に指定された。発熱と消化器症状が主な症状で汎血球減少症を呈する。臨床経過が急激で短時日で重症化する。わが国では2017 年までに累積318例(60例死亡)が報告され、致死率18・9%と危険性は極めて高い。

 SFTSはマダニが媒介するとされる。したがって、同じくマダニによって媒介される日本紅斑熱と発生地も重なっている。SFTSに対する有効な治療法は現在のところないとされるが、現在抗ウイルス薬アビガンの臨床研究がなされており効果が期待される(2016年より医師主導型の臨床研究、2018年より企業主導の臨床治験)。

 マダニにより媒介される病気が急増し第一線臨床現場にマダニが持ち込まれたり診療する機会が増加している。ダニ刺咬患者に対する初期対応が患者の予後を左右する。マダニに刺咬されて患者が来院した場合、マダニから人への感染防止のためにマダニの口器が皮内に残らないように除去する必要がある。除去後には1〜2週間は熱型でフォローし、発熱があれば、直ちに補液とMINOやCPFXとの併用療法を考慮する。日本紅斑熱の併用療法はサイトカイン過剰産生を抑制し重症化を防ぐ可能性が示唆されている。注意深い経過観察によりSFTSが濃厚になれば直ちに抗ウイルス薬を選択する。

 マダニの除去法に関しては、従来、ワセリン法、ニードルパンチ法、後方刺入法、外科的摘出法などがなされていた。しかし、マダニに日常的に暴露され頻回にマダニ刺咬を受ける患者に対して非侵襲的に除去する方法が必要と考えていた。2016年著者は市販の動物用Tick twisterを臨床応用しマダニをツイストして除去するティックツイスト法を試みた。マダニの口器、口下片を欠損することなく86・2%(25/29例)で完全に除去できた。局所麻酔が不要、安価であるなど簡便で有用な方法であると考えられた。

 しかし、動物用の器具を使うことの倫理的な問題もあり、第69回日本衛生動物学会大会(2017年:長崎)においてCOI宣言下に発表した。近年、マダニからペット(イヌ、ネコ)にSFTSが感染し、ペットを飼っていたヒトもSFTSに感染したことが報告されている。今後人獣共通感染症として感染経路も含めたさらなる研究が必要である。

 マダニは身近に存在する。日本紅斑熱の発生数増加や地域の拡大に加えて、SFTSやダニ脳炎など新たな脅威が迫っている。

 医療の現場では広い視野に立った情報の収集と注意深い観察力が必要である。

 ダニされどダニ、あなどれない!

まはら・ふみひこ

1967年札幌医科大学卒業。和田寿郎教授が率いる外科学に入局。杏林大学外科学講師を経て、1980年徳島県阿南市新野町にて馬原医院を開業。1984年紅斑熱群リケッチア症患者を発見、日本紅斑熱と命名する。2012年、馬原アカリ医学研究所、馬原ダニの資料館設立。日本感染症学会評議員、インフェクションコントロールドクター(ICD)。

 

※ドクターズマガジン2018年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

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