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日本の性差医療のあゆみとこれから
天野 惠子

静風荘病院
特別顧問
天野 惠子

 1999年、第47回日本心臓病学会にて性差医療の概念を紹介した。その後、鹿児島大学、千葉県をはじめとした多くの県で、「性差医療の実践の場」として女性外来が展開された。

 2002年、千葉県では、「女性医療疫学調査委員会」が立ち上げられ、健康診査データ収集システム確立事業をはじめとする疫学調査が実施された。

 2003年、性差医療・医学研究会と性差医療情報ネットワークが発足。

 2005年、内閣府「男女共同参画基本計画第2次」において、「生涯を通じた女性の健康支援」が掲げられ、「性差に応じた的確な医療である性差医療を推進する」と明記された。

 2007年、厚生労働省「新健康フロンティア戦略」において、女性の健康づくり推進懇談会が設置され、性差を考慮した医療に役立つ研究の推進が重点課題となった。

 2008年、性差医療・医学研究会が発展的に日本性差医学・医療学会に。

 2008年、「ドクターズマガジン」で性差医療・医学が紹介されて以降、各分野における性差医学への関心は確実に進む。日本人を対象とした疫学・臨床試験に性別が項目として入り、多くの臨床ガイドラインがその結果を反映するようになった。日本循環器学会では、毎年の年次学術集会にて、性差に関するテーマが取り上げられるようになり、2010年秋には「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」の完成をみた。

 2016年1月、アメリカ心臓協会(AHA)は、虚血性心疾患の臨床像と予後に関して性差があることを理解することが女性の心臓発作の予防と治療のために重要であり、女性患者自身も薬物療法や介入方法について、医師と率直に話し合うべきであるとの声明を発表した。2016年2月、日本性差医学・医療学会はその声明を受けて、日本人の人種的・社会的特徴を考慮した女性の虚血性心疾患の医学・医療に関しての声明を発表した。

 2017年9月には、東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学下川宏明教授を学会長とする第8回国際性差医学会学術集会(The 8th congress of the International Society for Gender Medicine)が、仙台国際センターにおいて、開催された。メインテーマは、「Trends in Gender Medicine:Superaging Society and Globalization」。世界の18ヶ国から約250人の参加者があり、約200演題が発表され、活発な質疑が行われた。

 世界で最も速いスピードで高齢化が進んでいる日本。2015年には、65歳以上の高齢者の割合が26・7%と予測されている。しかし、臨床試験データは65歳未満を対象としており、高齢者についての情報が欠けているのは、今後の課題である。

 日本性差医学・医療学会では「男女共同参画の理念を実行へ」との努力も進めている。2016年の世界経済フォーラムで、日本のGender Gap Indexは144ヶ国中111番目。小中学校での教育、生命予後は1位だったが、経済・政治への参加、大学・大学院での教授の割合が100位以下であった。現に、2014年の医科大学における女性教授の割合はわずか2・5%である。

 2018年1月、第11回日本性差医学・医療学会学術集会で、樗木(ちしゃき)晶子会長が「このような横断的で多彩な分野の医学・医療を学べる機会はめったにない。さまざまな患者に対応する実地医家こそ、すぐに役立つ知識を得ることのできる学会」と非学会員の参加を促してくださり、多くの参加者の熱心な質疑が交わされた。学会の中核には各領域の専門家を配しているので、広く社会に性差医学・医療を普及するために、一般会員として総合診療医や実地医家にターゲットを当てる学会の方向性もありではないかと思う。

 私が性差に気付くきっかけとなった微小血管狭心症もやっと医療者の注目を引くようになった。冠微小循環障害は、最初は、更年期前後の女性に多い微小血管狭心症の原因として注目されたが、最近では、虚血性心臓病全般や心筋症・心不全などの病態にも深く関与する重要な予後規定因子であり、新たな治療標的であることが分かってきている。

 人種・年齢・生活習慣・遺伝・環境などとともに、医学・医療において性差を当たり前に考えるようになる時代がすぐそこまで来ていると思っている。

あまの・けいこ

1967年東京大学卒業。米国でレジデント、カナダでフェローを経て、東京大学第二内科へ。1994年東京水産大学保健管理センター教授・所長、2002年千葉県立東金病院副院長、2004年鹿児島大学非常勤講師、2005年秋田大学客員教授、2009年より現役。2011年、千葉大学客員教授。日本の性差医療開設のけん引役として知られる。

 

※ドクターズマガジン2018年8月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

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